2016年御翼9月号その2

                                         

幸せなら手をたたこう ―― 作詞者・木村利人(りひと)

 

 『幸せなら手をたたこう』は1964年に坂本九が歌って大ヒットし、いくつかの国々でも歌われている。原曲はスペイン民謡ではないかと言われるが、そのメロディーに今の歌詞をつけたのは、木村利人さん(82歳―早稲田大学名誉教授、現・恵泉女学園大学 学長)という日本人クリスチャンである。一九五九(昭和三十四)年、早稲田大学・大学院生で、奉仕園にて活動する利人さん(当時25歳)は、太平洋戦争で荒れたフィリピンの農村で行われた、YMCA主催の農村復興ボランティアに参加する。それは、終戦から僅か14年後のことで、フィリピン国民は強い反日感情を抱き続けていた。利人さんは、フィリピン人青年たちとボランティア活動をすることになった。初めのうちは、彼らと心を通わすことができなかったが、農作業や建築作業で共に汗を流すうちに、少しずつ互いを理解し合えるようになる。そして、戦争で心に傷を負ったある一人の青年が、利人さんの手を取って、涙を流しながらこう言った。「僕たち友達になろう。そして二度と戦争が起こらないようにしよう」と。
 抗日ゲリラだと疑われるだけで、家族を日本兵に虐殺されたというフィリピンの青年もいたであろう。そんな彼らの中のクリスチャン青年が、信仰により反日感情を越えて、日本人青年・利人さんに愛を、具体的な態度で示してくれたのだ。それが、「幸せなら態度で示そう」という歌詞となったのだ。その元となったのは詩篇47篇1節「もろもろの民よ、手をうち、喜びの声をあげ、神にむかって叫べ」である。
 帰国した利人さんは、フィリピンの子どもたちが歌っていたメロディーに日本語の歌詞をつけ、仲間内で歌っていた。やがて評判となり、歌声喫茶でも歌われるようになったのを、偶然、国民的人気歌手、坂本九が聞きつけ、当初、作詞者不詳としてレコードとなった。歌がヒットすると、利人さんは、自分が作詞者であることを表明したのだった。今、利人さんは教会や学校で講演活動をし、この歌詞には、感情を越えて接してくれた、フィリピン青年の愛があったことを伝えている。

NHKBS1スペシャル「幸せなら手をたたこう〜名曲誕生の知られざる物語」 2016.7.31放送


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